2013年5月8日、白石区菊水に「たつみキッチン」がオープンしました。夫婦ふたりの小規模なお店をやろうと思った時に出会ったのがいまのたつみキッチンの場所でした。本当はもう少し広い方がよかったのですが、住んでいた場所から近くご縁もあったのでこの場所に決めたのです。結果的には、今の場所でなければ後に拡張することもできなかったと思うので本当に幸運でした。
たつみキッチンの当初のコンセプトは「街の食の便利屋さん」。イートインでもテイクアウトでも、気軽に食事の利用をしてもらえるようにと考えていました。今から考えてもこのオープンに際しては本当に失敗ばかり。「営業時間は夜7時まで」「電話番号はオープンにしない」「イタリアンだと思われないように」「テーブル席を作らずに窓側にカウンター席を作る」「メニューはセットのみ」などなど。数えたら切りがないほどです。
ホント、「あほ」です。
5年間もお店を経営したあとの再スタートだったはずなのに、経営についてまだ何も解っていなかった。1年が過ぎた頃には、自分たちのあまりの商売センスの無さに本当にお店を辞めようと思いました。辛かったことは沢山ありましたが、本当に辞めようと思ったのはこの時が初めてでした。家族みんなで大阪の私の実家に帰って、雇われで調理の仕事でもしようと求人まで探しました。でも「まだ、やれることがある。もうちょっとだけ頑張ってみよう」と思い直して、まずディナー営業をするようにしました。そして窓側のカウンター席は取り外しテーブル席を増やし、入口にイタリア国旗を飾り、メニューも変えました。
「普通に戻っただけやん!」
普通に戻ると、少しづつですがお客様が増えていきました。ところが、今度は狭い店内ゆえ、お断りすることが多くなってきました。お客様には申し訳ないし、売り上げも上がらない。どうしたものかと今度は別の悩みが出てきたのです。そんなある日、妻が「私、隣の空いているテナントで別のお店でもやろうかしら」と言いだしたのです。(妻は妄想好きなので隣のお店はすでに繁盛していたようです(笑))。「それなら、壁を壊して、拡張したらお客様をお断りしなくて大丈夫になるんじゃない?」と私。テナントのオーナーさんも快諾してくれて、そこからは、トントン拍子に話は進んでいきました。
ここでまた、素敵な出会いが。妻の友人が、知り合いのデザイナーさんを紹介してくれたのです。予算があまりにも少ないので、こちらからお願いするのは難しいとお断りしたにも関わらず、「やりますよ」と快く引き受けてくれました。私達の今までの話や希望をじっくりと聞いてくれて、その想いをデザインに活かして想像もしなかった素敵な空間を作り上げてくれたのです。出来上がりの姿を見て本当に感激しました。10年間、ずっと実現できなかった理想的なお店の空間が実現したのですから。私達にとって忘れることのできない恩人のひとりです。
2015年11月に、広くなった「たつみキッチン」がオープンしました。新しいたつみキッチンのコンセプトは「美味しい料理とお酒をゆっくり楽しめる カジュアルイタリアン」。広くなった当初は、「これをふたりでやるの?広すぎるんじゃない」とも言われましたが、ふたりで営業するノウハウを考え、メニューを工夫し 上手く営業する術を身に付けていきました。贅沢に座席を使い、皆さんにゆっくりと過ごしてもらえていることにとても満足しています。ただ、座席が多い分、同時に沢山のお客様が来店するとどうしても時間がかかってしまうことが新たな悩みになってしまいました。本当に贅沢な話ですけどね。
最近は、毎日、閉店後にはお酒を飲みながら今日の営業の反省会をするのが日課となっています。「今日のお客様には、こうした方がよかったんじゃない?」「この料理はこうした方が良いのでは?」などなど。お客様に「今日はここで食事をして良かったな」と思って帰って頂けるように、昨日よりは今日、今日より明日、より良いお店になるようこれからも努力を続けていきます。
こうして振り返ってみると、本当に多くの人達に支えられて今の私達があるのだと改めて感じます。自分勝手に、場所を変え、営業形態を変え、メニューを変えたりしているにも関わらず、イタリアンレストランTATSUMI時代からずっと通い続けてくれているお客様には本当に感謝の言葉しかありません。また、両親、家族、テナントのオーナーさん、デザイナーさん、などなど、困った時に手を差し伸べて応援してくれた方々。少しでも長くお店を続けていくことが私達のできる恩返しだと思っています。今後も15年、20年と体力の続く限りこの菊水の地で頑張っていくつもりです。あっ、でも飽きっぽい私達なので、営業のスタイルはまた変わるかもしれませんが…(笑)。